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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)1678号 判決

控訴人 株式会社 日本機関紙印刷所

被控訴人 国

訴訟代理人 宇佐美初男 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金三百五十万円及び内金二百万円に対する昭和二十八年七月十六日以降、内金百五十万円に対する昭和三十一年四月十五日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の陳述した事実上の主張、証拠の提出・援用及び認否は、左記のほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し原判決二十一枚目-記録第五三五丁-裏十行目に「勅力」とあるのは、「勅令」の誤記と認められるので、右のとおり訂正する。)。

控訴代理人は次のとおり述べた。

一、被控訴人は、法務府特別審査局(以下特審局と略称する)員による本件差押封印行為は、連合国最高司令官の執行機関としての行為であつて、国の公権力の行使によるものではない旨主張するけれども、被控訴人の公権力の行使に期待するところがあつたからこそ、連合国最高司令官は内閣総理大臣に指令を発したものである。もし被控訴人の主張が正しいとするならば、連合国最高司令官は内閣総理大臣を通じて日本国の公権力の発現機関である特審局員をして本件の執行をさせる必要なく、調達局からしかるべき員数の人夫の調達を要請し、このものに執行をさせればたりたのである。

特審局員は本件執行に当り国の公権力を帯有発現しつつ、積極的能動的に行動したもので、その責任は法務総裁に執行を委任した内閣総理大臣にあるのであつて、本件執行は結局被控訴人自らの有責行為である。

二、被控訴人は本件執行行為の責任を回避する論拠の一つとして、本件執行が米軍の直接管理によるものである旨主張するが「降伏後における米国の初期の対日方針」の第二部によつて明らかなように、米国の方針は現在の日本の統治形式を利用し、米国の目的達成を満足に促進する限りにおいては、天皇を含む日本政府機関及び諸機関を通じてその権力を行使する間接管理方式を確立したものである。日本政府は連合国最高司令官の指令のもとに政治権能を行使することを許容されたのであるから、たんに連合国最高司令官の書簡や覚書による指令に根拠を有するからといつて、それが直接管理であるというのは正当な理論ではない。米国の右方針は「天皇又は他の日本の機関が降伏条項実施上最高司令官の要求を満足に果さざる場合にのみ、最高司令官が政府機構又は人事の変更を要求し乃至は直接行動する権利及び義務の下に置かれる」こと、すなわち直接管理方式がとられる場合がありうるにすぎない。従つて連合国最高司令官の権限に関する訓令第二項にも「日本の管理は満足なる結果を生ずる限りにおいて日本政府を通じて行わるべし」として間接管理方式を宣言している。「アカハタ」の発行停止措置は最高司令官が書簡の形式により日本国内閣総理大臣に指示したものであるから、日本政府を通じて行つたもので、間接管理の一類型にすぎない。本件執行は被控訴人自ら主張するように、指令の趣旨に従い完全に実施せられ、その結果はただちに特審局吉橋敏雄次長から総司令部民政局長に詳細に報告せられ、異議がないという承認を受け、なんら不充分も行き過ぎもなかつたというのであつて、極めて満足な結果が得られたのである。従つて前掲の対日方針や訓令に示されたとおり、満足な結果を生じた限りにおいて、特審局員の本件執行行為は明らかに連合国最高司令官の意図した間接管理に適合したものであつて、指令に基くとか事後報告をしたとの事実は、なんら本件執行が間接管理によるものであることに影響を与えるものではない。

三、本件執行行為は、執行の時においてすでに日本国憲法に違反するものである。

それだから、特審局長も本件執行に際し、疑問を抱いて「日本の法制に従い執行すべきもので、現行法にこれをなしうる根拠がなければ特に立法措置を講ずる必要があるのではないか。」との伺を総司令部に立てたのである。本件執行行為は行為当時適法であつたものが、講和条約発効と同時に違法なものに転化したという関係ではない。講和条約発効の前後で異るのは、その発効以前すなわち占領継続中は占領政策の要求に基いて違憲の主張が認められなかつただけで、日本国の独立回復後には、このような障害が消滅したことにより違憲違法の主張はなんら妨げられることなく、一切の権利関係や責任が明確にされるべく、被控訴人は控訴人に対し違法執行による本件損害を賠償する義務がある。

被控訴代理人は次のとおり述べた。

一、特審局員の日本国公務員としての職務関係は、同局員が本件執行に従事するについての縁由となつたものにすぎず、本件執行そのものは、連合国最高司令官の直接管理のもとに、その公権的作用の直接的実現としてなされたのであつて、何等日本国の公権力の行使としてなされたものではない。本件執行当時連合国最高司令官の指令が超憲法的効力を有していたことは、多言を要しないところであるから、特審局員が右司令官の指令の直接的執行として本件執行行為をしたものである以上は、それが日本国の公権力の行使としてなされたならば違憲となるような内容のものであつても、これを以つて違法とすることはできない。

二、控訴人は、本件執行は本来違憲であるから、占領終了後はその違法を主張しうるものとしているが、ある行為が適法かどうかは行為時の法令により定まるものであつて占領が終了したからといつて占領中の連合国最高司令官の超憲法的指令の執行として適法になされた行為が、不適法と化すべき理由はない。

理由

一、控訴人が印刷を業とする株式会社であること、昭和二十五年七月二十四日法務府特審局職員が控訴会社社屋で控訴人所有のマリノニ式輪転機のほか平台印刷機二台その他十六点の物件を差押えて封印を施したこと、昭和二十六年五月二十四日同職員が控訴会社社屋の一部である大組室及び発送室の二室に封印を施したこと、右平台印刷機二台に対する封印は昭和二十五年九月十八日、大組室及び発送室の二室に対する封印は昭和二十六年十二月二十一日、マリノニ式輪転機に対する封印は昭和二十七年四月二十四日それぞれ解除されたことは、いずれも当事者間に争がない。

二、控訴人は「日本における連合国の管理は間接管理方式によるものであるところ、本件差押封印は法令上の根拠なく、国の公権力の行使として特審局員によつてなされたもので、憲法第一一条、第一三条、第一四条、第一九条、第二一条、第二三条、第二九条、第三二条、第三五条に違反し違法である旨主張し、被控訴人はこれを争い、本件差押封印は連合国の直接管理行為としてなされたもので、国の公権力の行使としてなされたものではない旨主張するので、まずこの点について判断する。いずれも同一原本の存在並びにその成立について争のない甲第一号証、第十四、第十五号証、いずれも成立について争のない甲第十六号証、乙第一、第二号証、第七ないし第九号証、原審証人橋本炎の証言(第一回)及び原審での控訴会社代表者武内六郎の本人尋問の結果により同一原本の存在並びにその成立が真正であると認められる甲第十号証と原審証人吉橋敏雄、柳瀬乙三の各証言を綜合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、連合国最高司令官は内閣総理大臣あてに、昭和二十五年六月二十六日、「日本政府がアカハタの発行を三〇日間停止させるために必要な措置をとることを指令する」旨の書簡を発し、次いで同年七月十八日「アカハタ及びその後継紙並びに同類紙の発行に対し課せられた停刊措置を無制限に継続することを指令する」旨の書簡を発し、右指令をただちに執行することを命じた。内閣総理大臣は右停止措置の執行を法務総裁に委任し、法務総裁は特審局長吉河光貞に右指令の執行を命じた。特審局長は昭和二十五年六月二十六日附書簡による右指令を執行するに際し右執行は日本政府が連合国最高司令官の命を受け、いわゆる間接管理方式に従い、国内統治の行為として行うべきものか、もしそうであるとすれば日本の法令に従い執行しなければならないので、現行法にこれをなしうる法令上の根拠がなければ、特に立法的措置を講ずる必要があることであるし、それとも連合国最高司令官が占領当局者として日本管理について保有する権限に基き、いわゆる直接管理方式により、直接「アカハタ」の発行停止を命令し、その執行行為も自己の行為として行わしめる趣旨であるのか明らかでなく、また右指令にいう「停止させるために必要な措置」とはいかなる措置をさすのか明らかでなかつたので、同日夜連合国総司令部係官に面会を求め、右の疑点を確めた。これに対し、総司令部係官は第一の点については、右指令に対応する日本の国内法を制定し、国内法に基づいて「アカハタ」の発行停止措置をとれとの趣旨ではなく、最高司令官の指令をそのまますみやかに執行すべきものであり、執行をしたときはその顛末をただちに総司令部に報告してその承認を受くべき旨を回答し、また第二の点については、「アカハタ」の編集、印刷、発行、配布に関する一切の資料、器材並びに施設を捜索し、押収、封印、監守をなすべきことを指示した。そこで特審局長は総司令部当局の具体的指示に従い、「アカハタ」を印刷していた訴外あかつき印刷株式会社の印刷機械器具、工場建物等の封印差押をなし、その執行の経過を総司令部に報告して承認をえた。その後間もなく連合国最高司令官から昭和二十五年七月十八日附書簡で、上記のように「アカハタ」及びその後継紙並びに同類紙の発行を無期限に停止させるために必要な措置をとるべき旨の指令が発せられた。その際「アカハタ」の後継紙又は同類紙に当るものかどうかの認定はすべて最高司令官の専権に属するものとせられ、その認定に基いて、総司令部民生局長から特審局次長吉橋敏雄に対し「新文化」は「アカハタ」の後継紙であり「労働新聞」は「アカハタ」の同類紙であると認定されたこと、これらの新聞の発行停止に必要な一切の措置を同月二十四日までにとるべく、その措置としては、右後継紙及び同類紙の印刷を行つている控訴会社の社屋を捜索し、印刷機械、器具その他の施設に対して差押封印をなして使用不能となすべきこと、右措置執行のうえはただちにその結果を総司令部に報告して承認を受くべきこと等、最高司令官よりの有権的解釈並びにその具体的指示が与えられた。そこで特審局長は同月二十四日警察職員の応援を受け、特審局員をして控訴会社において上記のとおりマクノニ式輪転機一台、平台印刷機二台その他の物件を差押え、各印刷機には封印を施してその使用ができないようにさせたうえ、その結果を総司令部民生局長に報告して右執行行為の承認をえた。その後連合国最高司令官は昭和二十六年五月十四、五日頃さらに「労働者」は「アカハタ」の同類紙であると認定したうえ、総司令部民生局長をして特審局長を代理する同局第三課長柳瀬乙三に対し、同年五月二十四日中に右「労働者」の発行停止に必要な措置をとるよう指令したので、特審局長は特審局員をして同日控訴会社社屋中大組室及び発送室の二室に上記のとおり封印を施してその使用ができないようにさせ、即日その結果を総司令部に報告して右執行行為の承認をえた。

同一原本の存在並びにその成立について争のない甲第十三号証、第十八号証の各記載並びに原審証人阿部良之助、福田喜一郎、田中正巳、菊間健、小池静一郎、鈴木文人、梨木作次郎、橋本炎(第一回)の各証言中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照してたやすく信用できない。他に上記認定を動かすことのできる証拠はない。

日本における連合国の管理は、原則としていわゆる間接管理の方式をとつていたけれども、連合国最高司令官は占領目的達成に必要な場合には、直接管理する権限を有するとともに直接管理をなすことを義務づけられていたものであることは一九四五年九月二日降伏文書第五項、第七項、同日連合国最高司令官一般命令第一号第十二項、同月二十二日発表の「降伏後におけるアメリカの初期の対日方針」第二部D項、同月二十四日附「連合国最高司令官の権限に関する訓令」第二項等の諸条項に照して明らかなところである。ところで、上記認定の事実に徴すると、連合国最高司令官の発した昭和二十五年六月二十六日附「アカハタ」の発行停止に関する指令並びに同年七月十八日附「アカハタ」及びその後継紙並びに同類紙の発行停止措置継続に関する指令は、いずれも連合国最高司令官が日本政府に対しその国家統治の権限に基いて「アカハタ」及びその後継紙並びに同類紙の発行停止の処分を指令したものではなく、最高司令官がその固有の権限に基いて直接右処分の執行を命じたものであつて、本件差押封印はいずれも最高司令官の責任による直接管理の方式に従い、日本の政府職員(特審局員)を執行機関として執行させたのであり、換言すれば、日本政府がその統治権に基き公権力の行使として、特審局員をして本件差押封印を実施させたものではないと認めるのを相当とする。しかして日本国の支配下にある行政官憲並びに私人等は、連合国最高司令官の一般命令及び爾後同司令官又は他の連合国軍官憲の発する一切の指示に誠実且つ迅速に服すべきものとせられ、右一般命令もしくは爾後の命令の規定を遵守するに遅滞があり又はこれを遵守しないとき及び連合国司令官が連合国に対し有害であると認める行為あるときは、連合国官憲及び日本国政府は厳重且つ迅速な制裁を加えるものと定められたことは、連合国最高司令官一般命令第一号第十二項の規定に徴して明らかである。従つて本件差押封印行為が国内法令の根拠がなく行われ日本の国法上は違法なものであつても、それはすべて連合国最高司令官が適当と認めて発した指令に従つて行われたもので、右指令は苛酷とみられる点がないではないとしても、降伏条項実施の範囲外であることがきわめて明白であるとも断定できないのであるから、これに従う義務のある特審局員による本件執行行為は義務行為としてその違法性が阻却されるものといわなければならない。

また、本件差押封印行為は日本国憲法に基くものとしては違憲の疑あるを免れないのであろうが、右行為は日本が連合国軍により占領されていた間になされたものであつて、問題は被占領下の法律関係によつて決せられるべきものであることはもちろんである。日本はポツダム宣言を受諾し連合国に無条件降伏をなし、昭和二十年九月二日降伏文書に調印した結果、降伏文書に基く連合国軍の占領を受諾したことは、公知な事実である。占領に関する法律関係は降伏文書により規律されるわけであるが、降伏文書第八項は、「天皇及日本国政府ノ国家統治ノ権限ハ本降伏条項ヲ実施スル為適当ト認ムル措置ヲ執ル連合国最高司令官ノ制限ノ下ニ置カルルモノトス」と規定している。従つて、最高司令官は降伏条項を実施するためには、日本国憲法にかかわりなく、全く自由に自ら適当と認める措置をとることができ、日本国政府はこれを実施することを要する法律関係にある。最高司令官の権限が上記のとおりのものであり、本件差押封印は、日本国政府職員によつてなされたものではあるが、上記認定のように最高司令官による直接管理行為としてその有権的解釈を基礎としてその具体的指示に従つて行われたものであるから、日本国憲法の規定に照してそれが違法であるかどうかを問題にする余地は全くないといわなければならない。よつて、控訴人の憲法の諸規定に違反するとの右主張は採用に値しない。

三、控訴人は「最高司令官の発した昭和二十五年六月二十六日附及び同年七月十八日附の各書簡はポツダム宣言第十項及び陸戦の法規慣例に関するヘーグ条約に違反し無効であるから日本政府はこれを批判しその是正を求める義務があるのに、被控訴人は慢然と右各書簡による指令に盲従し本件執行行為をなしたのであるから違法である。」旨主張するので判断する。成立に争のない乙第十号証(別件での鑑定人横田喜三郎の鑑定書)によれば、連合国軍による日本の占領は、交戦国双方が戦闘を止める意思で休戦協定の性質を有する降伏文書に双方が合意し、これに基づいて行われた占領であるところ上記ヘーグ条約に定めている占領は戦闘継続中に一方の交戦国の領土が他方の交戦国の軍によつて占領せられた場合で、双方とも交戦を止める意思のない状況での占領であつて、その性質を異にするものであるから、戦時国際法に属する上記ヘーグ条約の定めは日本の占領には直接には適用せられないことが明らかである。従つてこれが適用のあることを前提とする控訴人の主張は理由がないばかりでなく、最高司令官が降伏条項実施のため適当と認めて発した指令については、日本の政府官憲及び国民はこれに従う義務があるのであるから、その指令が何人にとつても降伏条項実施の範囲外であることが極めて明白であるような異例の場合(本件がこのような場合であるとは認められない)を除いては、被占領下の法律関係として、最高司令官の発した指令がポツダム宣言の規定または上記ヘーグ条約に違反するものとして日本政府がこれを批判し、その是正を求める義務があるものと認めえないことは、降伏文書及び一般命令第一号の前掲各規定に徴して明らかであるから、控訴人の右主張は採用できない。

四、次に控訴人は「本件差押封印行為は公権力の行使に当る特審局員が指令の範囲を逸脱して、職権を濫用してなしたもので、控訴人の営業妨害であるから違法である。」旨主張する。本件差押封印行為は日本の国内統治権に基く公権力の行使としてなされたものでないことは、上記認定のとおりである。特審局員は日本の公務員であり、公務を行使する地位にあるものであるから、特審局員の行為が故意又は過失により指令の範囲を逸脱して、職権を濫用して他人に損害を加えたときは、国は右不法行為について国家賠償法の責任を免れないかどうかについては問題である。

しかしながら、本件差押封印行為は最高司令官の具体的指示に従つてなされ且つその結果報告の承認も得たものであることは、上記認定のとおりであつて、右指令の範囲を逸脱し職権を濫用したと認むべきなんの証拠もないのであるから右主張も採用できない。

五、控訴人は「新文化」を「アカハタ」の後継紙、「労働新聞」及び「労働者」を「アカハタ」の同類紙と各認定したのは、法務総裁並びに特審局長の独自の責任による行為で、故意又は過失による誤認であつて、本件差押封印行為は右誤認に基いてなされたものであるから違法である旨主張するけれどもこれを認めるにたる証拠はない。反つて、右認定の権限は連合国最高司令官の専権に属するものとせられ、その権限に基き最高司令官が右のような後継紙及び同類紙の認定をなし、その旨日本の政府当局者に指示したものであることは、上段で認定したとおりであるから、控訴人の右主張も採用に値しない。

六、なお控訴人は、「昭和二十七年四月二十八日対日講和条約発効後においては、わが国の独立自主の立場から、連合国最高司令官の指令に基く行為であつても、違憲、違法の主張を妨げる障害がなくなつたのであるから、被控訴人国は国家賠償法に基いて本件の違法行為について損害賠償の責に任ずべきである。」旨主張するので判断する。特審局員による本件差押封印行為は、その行為当時において日本国憲法の規定に照して違法かどうかを問題にする余地がなく、また控訴人の主張のような趣旨での違法を認めることができないことは、上段説示のとおりであるから、行為時において適法であつた行為が講和条約の発効によつて違憲、違法となつたと解すべき実定法上の根拠はなにも認めることはできない。従つて、特にこれが救済のための立法的措置を講じない限り、国家賠償法が本件に適用あるものと解しえないことは多言を要しないところであるから、控訴人の右主張も排斥を免れない。

七、してみると、特審局員による本件差押封印行為が違憲、違法であつて、本件に国家賠償法の適用があることを前提として、被控訴人に対しその損害の賠償を求める控訴人の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく、失当として棄却を免れない。従つて右と同趣旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項を適用してこれを棄却することとし、控訴費用の負担について同法第九五条・第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

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